レストランでの注文の順番


ドイツと日本、2カ国の間で驚くほど違う、『えっ?そうなの?』の数々を一つ一つご紹介していきます


 ドイツに16年間住んでいた際に、私をいろいろな方たちが訪れてくれました。親、兄弟、親戚、同級生、職場の元同僚、友達、サッカーを通じての知り合いなど。訪問を受けた際には当然、一緒にレストランやカフェに行くことになります。そのときにこのテーマの問題が勃発します。

 

 ドイツのレストランへ行き店内で空いたテーブルに座ると、しばらくすればウェイトレス/ウェイターがやってきます。このとき彼らが注文を取ろうとしているのは、食事ではなく、飲み物です。


えっ?注文は、飲み物が先?


 自分たちが座ったテーブルへウェイトレス/ウェイターが来てくれても、往々にして彼らは手ぶらです。そしてお決まりの問いかけをします。

 

「飲み物は何になさいますか?(Was möchten Sie trinken?)」

 

 ここで、ほとんどの日本人は面食らいます。なぜならお腹が空いたのでレストランへと入り、『さぁて何を食べようか?』と考えあぐねていたところだったからです。『どんなものがドイツだと食べられるのか?そもそもどんな味なのか?』などと考えているところへ、食事ではなく飲み物を注文するというのは至難の技となります。

 ウェイトレス/ウェイターに聞かれ、急に飲み物のメニューをもらったとしても、はてさて何を頼んだらいいものか?先ほどまでの食事と同様、迷うというよりは、何が何だかわからないというのが実態でしょう。

 そもそもこのタイミングは、日本であれば、(無料の)水かお茶が出てくるシーンです。

 

 ウェイトレス/ウェイターが入ってきたばかりのお客さんのテーブルへ最初に向かったときに、最初からメニューを持ってきてくれるレストランもあります。しかし、すべてではありません。どちらかというと、持ってきてくれる方が多い、くらいです。もしメニューがテーブルになくてメニューをもらうには、こう言わなければなりません。

 

「メニューをもらえますか?(Können wir eine Speisekarte haben?)」

 

ドイツ料理はボリュームがあり、数日間昼と夜ずっとレストランで食事をしていると、段々食べられなくなることも
ドイツ料理はボリュームがあり、数日間昼と夜ずっとレストランで食事をしていると、段々食べられなくなることも

注文の仕方 その意外な裏技とは?


 話を「注文の仕方」に戻しましょう。ウェイトレス/ウェイターが最初にテーブルまで来てくれたとき、彼らはまず飲み物の注文を取りに来ています。ですから、何を飲むのか?テーブルに座った各自が、前もって決めていなければなりません。

 しかしながら、これができません。なかなか日本人には。なぜなら、日本では食事を先に頼み、その後飲み物を注文する習慣があり、注文の順番が反対だからです。

 

 何日かドイツに滞在して何回かレストランへ寄ると、ドイツのレストランに存在する飲み物の中で自分が欲するもの、飲みたい物が定まってきます。そうなれば、ウェイトレス/ウェイターが手ぶらでテーブルへ来ても、すぐに飲み物を注文することができます。これはドイツにだいぶ慣れてきた証拠でもあります。

 もしウェイトレス/ウェイターが忙しそうにしていてなかなかテーブルへ来てくれなくても、我々の方から声を掛けて、欲しい飲み物を伝えることもできるようになります。ここまでになるとツーリストとしては、かなりの強者の部類に属したことになります。

 

 現地に住んでいた私は、もう飲む物は決まっていました。自動車の運転など大事な用事がなければ白ビール(Weißbier/Weizen) 、自動車の運転があればアップフェルショーレ(Apfelschorle)を頼みました。これはどのレストランにもあるものです。

 このように現地に住んでいる人たちは、もうすでに自分の好みの飲み物が決まっているため、ウェイトレス/ウェイターは手ぶらで飲み物の注文を取りに来るわけです。

 

ビールと相性の良いブレーツェル:塩はかなり多めにくっついていますので、自分の好みになるまでボロボロ自信を持って落としましょう。ドイツ人でもほとんど塩を取り除いてしまう人もいますから
ビールと相性の良いブレーツェル:塩はかなり多めにくっついていますので、自分の好みになるまでボロボロ自信を持って落としましょう。ドイツ人でもほとんど塩を取り除いてしまう人もいますから

 さて問題は、皆さんがツーリストとしてドイツへ行きレストランへ入ったときですね。裏技としては、ウェイトレス/ウェイターがテーブルへ来たとき、何でもいいので何か一つ、飲み物を頼んでしまいます。複数の人数で座っているならば、「後の人たちはまだ、飲み物を決められていない」と伝えます。

 このことにより、ウェイトレス/ウェイターはテーブルを離れ、その飲み物を取りに戻ります。この瞬間(間隙を縫って?)、残りの飲み物、もしかしたら食事まで決める時間を稼いだことになります。

 そして飲み物を一つ頼んだわけですから、ウェイトレス/ウェイターは必ずもう一度やって来ます。その飲み物を持って。

 何でこんな表現をするのか?ウェイトレス/ウェイターがテーブルまで来ているのに、注文が全部まとまらない場合、彼らは焦れます。その飲み物や食事を選ぶのに費やしている時間が長くなると、彼らは一旦テーブルを離れます。

 

「後でまた来ます(Ich komme später dann.)」

 

と言い残して。しかしながら、そこから放っておかれることの方が多いです。彼らは注文を取ってなんぼの仕事をしています。お客さんたちから取った注文の何パーセントが、彼らの収益となります。ですので、注文をしないお客さんは、避けられてしまうのです。

 このことから、何も注文しないまま彼らを返してしまうと、そこからなかなか注文を取りに来てもらえないなんて、日本ではありえない目に遭うこともあります。

 

 ウェイトレス/ウェイターとの掛け合い、やり取り、会話のキャッチボールが大切です。「ビール一杯だけしか頼まず持って来させて、悪いなぁ』と考えるよりは、『掛け合いの最初の口火を切れた、いいスタートを切ることができた』と解釈した方がいいのです。

 一品でも頼めば、彼らはそれこそまるでブーメランのように必ず自分たちの座っているテーブルへと戻ってきてくれます。 旅の戦術ですね。

レストランのテラス席:気持ちの良い風を感じながら、美味しい料理と美味しいビール。そして楽しい団欒のひととき
レストランのテラス席:気持ちの良い風を感じながら、美味しい料理と美味しいビール。そして楽しい団欒のひととき

 ちなみにドイツでは、ウェイトレス/ウェイターの縄張り(区画)が、レストランごとに決められています(床に線が引いてあるわけではないので、この区割りは一見の客には理解できません)。ですので、自分たちのテーブルへウェイトレス/ウェイターが来ないからといって、座っているテーブルの近くを行き交うウェイトレス/ウェイターを呼び止めようとしても、無視されてしまうことが多々あります。呼び止め、話し掛けたウェイトレス/ウェイターがたまたま優しい人であった場合、来るべき同僚に注文を取りにいくように伝えますと返してくれます。

 

 レストランなどで厄介なのは、支払いのときのチップですね。大体10%くらいを目安にして、小銭で渡したり、例えば合計が32ユーロだったら、お金を渡す前か、渡しながら「35ユーロでいいですよ」と言い添えればオーケーです。

 

 ドイツのレストランは、外のテラス席があるところも数多くあります。晴れて温暖な日であれば、外で食事をするのは気持ちの良いものです。ぜひ皆さんも、ドイツのレストランのテラス席で、美味しいドイツ料理に舌鼓を打ちながら、これまた美味しいビールやワインを堪能してもらいたいと願っています。なんかドイツのガイドブックみたいになってきましたので、この辺で終わりにしたいと思います。