ドイツと日本、2カ国の間で驚くほど違う、『えっ?そうなの?』の数々を一つ一つご紹介していきます
ドイツの子供たちの間では、GKは憧れのポジションです。試合当日、チーム内の数人がGKになりたいというわけではなく、全員がなりたいのです。
ドイツではユニフォームは日本のように個人持ちではなく、クラブ持ちであり、アウェイの試合であれば指導者が試合当日まずクラブへ立ち寄り、ユニフォーム一式が入っているアルミ製の箱を試合会場まで運んできます。
日本だと個人持ちですから背番号は完全に固定ですが、ドイツだと各選手は毎試合違う番号のユニフォームの袖に腕を通します。時々同じ背番号を希望する選手が複数手を挙げることもありますが、たいがいいずれかの選手が譲り、一人の選手にユニフォームが渡ります。私の記憶が正しければ、ジャンケンみたいなことまでして所有権を決したことは、確かなかったと思います。でもこれはフィールドプレーヤーの背番号争いでのお話。GKのユニフォームに関しては、もっと激しさが増します。
話は脱線しますが、ユニフォームはクラブ持ちなので、使用後、つまり試合が終わった後は選手たちのいずれかの親がアルミ製の箱を持って帰り、家で洗濯をします。一つの家庭につき、だいたい年に1〜3回くらい回ってくる当番です。
話はさらに脱線しますが、どうしてユニフォームがクラブ持ちなのか?というと、ほとんどの場合クラブ近隣の企業などへユニフォーム一式の製作費の捻出をクラブがお願いして回り、それに応じてくれた企業が見つかるとユニフォームを新調します。費用を出してくれた会社のロゴなどが、胸スポンサーとしてユニフォームの胸に入ります。
日本でも子供たちが胸スポンサーを入れることはルール上できますが、規定の大きさを守らなければならず、また年度ごとに広告を入れることへの費用を日本サッカー協会へ支払わなければなりません。
私見ですが、Jリーグクラブの下部組織のチームであれば、このルールも理解できますが、一般のクラブやチームであれば、ドイツのように胸の広告に関する承認システムなど撤廃し、自由にした方が選手たちのためだと思います。個人にかかるユニフォーム代の負担がなくなりますから。
試合直前、忽然と消えるGKのユニフォーム
話を本題「なぜGKのユニフォームが紛失するのか?」に戻しましょう。アウェイの試合という設定で話しましょう。
何台かの選手たちの保護者の車に分乗して、チームは対戦相手のクラブへ到着します。指導者はまず、どの更衣室を使用してもいいのか?どのグラウンドで試合が行われるのか?を対戦相手のクラブへ聞き、指定された更衣室へチームを連れていき、その部屋の奥にユニフォーム一式が詰まっているアルミ製の箱を置きます。
事件はここから、動き始めます。指導者は相手チームの監督さんへ挨拶したり、試合の報告書をもらったり、試合を行う芝生を見に行ったりして、一旦更衣室を離れます。
しばらくして指導者が更衣室へと戻り、アルミ製の箱を開けて、まず一番人気のGKから「誰が今日やるのか?」決めようとGKのユニフォームを探します。が、箱の中に入っていません。自分のクラブからアルミ製の箱をピックアップした際には、GKのユニフォームは確かに入っていました。確認済みです。それはつまり、この更衣室の中で紛失したことになります。
指導者が振り返って更衣室を見渡すと、なんとGKのユニフォームがある選手のバッグの真上のフックに掛けられています。指導者がそのユニフォームを手で取ろうとすると、そのユニフォームをアルミ製の箱から勝手に持ち出し、自分のフックに掛けた犯人(選手)が声を掛けてきます、「それ、僕のだよ。今日、僕はキーパーだ」と。
ドイツ人は工具マニア?全員、大工志望者?
この例からもわかるように、ドイツではGKは大人気のポジションです。仮に私がアルミ製の箱からGKのユニフォームを出し「今日キーパーやりたい奴?」と問いかけると、全員が手を挙げますし、数人は私へ詰め寄り、一人は既にユニフォームの端を引っ張ります。
多くの選手が私の目の前に集まり、「そのユニフォームをよこせ!」とばかり、手を伸ばしています。仕方がないので、私はこう言います「よし、じゃぁこうしよう。今日はシモンがGKだ。それで来週の試合のときはダーヴィット、その次の試合はマリオ、その次はティム、その次はイェッセ、でその次はニルス」と。これで選手たちはなんとか納得して、自分のバッグの置いてあるベンチへ戻っていきます。
これが日本だとどうでしょう?まったく逆の反応が起きます。指導者からの問いかけを聞いたのか?聞かなかったのか?シラーッとした雰囲気となり、誰もキーパーなどやりたくないという反応が返ってきます。
ではなぜ、ドイツ人はGKが好きなのでしょうか?もちろん中学生以上になってくると、自分の向き不向きが選手自身でもわかってきますので、それまでのむやみやたらにキーパーのユニフォームに固執した行動は影を潜めるようになり、GKになるべき選手だけがユニフォームをもらうようになります。
戻って、なぜドイツ人はGKが好きなのか?ドイツ人は特別な存在が大好きなのです。チームの中で一人だけ、手を使っても構わない。ゴールを守るという特別な任務を任せてもらえる。その特権を手に入れられることが、とても痛快なことであり、誇り高く感じられるのです。
その一端は、ドイツ人の家の地下室で見ることができます。すべての家ではありませんが、かなり多くの家に地下室があり、たいてい物置にしています。しかし、またその大半が、工作室をしつらえています。
この工作台が、まあ尋常な風景ではありま
せん。日本では、まずあり得ないでしょう。自分の家や家具の補修をするための工作台の周りにある道具の揃え方は、半端ではありません。工作室の大きな机の幅一杯に、正面の壁にはノミやらノコギリやら、ドリルからドライバーに至るまで所狭しと、そしてとーっても整然と整理されて引っ掛けられています。その光景は『えっ?大工さんが本業?』と思わせるほど、完璧な準備です。
ドイツは個人主義なので、自分だけ違う、他の選手とは違った特別な任務に着くGKが大好き。日本人は協調性を重んじるから、その一風変わった出たち(ユニフォームの色は他の選手たちと違うし、手にはキーパーグローブを付ける)に始まり人と違ったことをするポジションよりも、ユニフォームもみんなと同じ、他の選手たちに同化して目立たない、みんなと同じフィールドプレーヤーを好むものと思われます。
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